〜本有引力〜

本と本がつながりますように

「伊藤亜紗さんと読む “体”がひらく世界」

プラハとベルリン、本の旅」の途上ですが、今日は別のお話を。

ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、池上ブックスタジオは、30㎝四方ほどの棚を借りて、それぞれの棚主が本を並べて販売する、いわゆる「シェア型の本屋」です。

2020年9月のオープンから、私=さるうさぎブックスは参加をしていますが、そのとき以来、毎回一つの「テーマ」を掲げて、棚に並べる本を選んできております。

2020.09〜12:Go to "Book" Travel!!
(上の企画との連動企画として)川内有緒文庫
2021 .01〜05:踊るタイトル コトバの遊び場
2021.06〜07:おうちとかぞく
2021.08〜09:夏休み!『10代のための読書地図』フェア
2022.01〜06:動物たちの棚
2022.07〜:ないもの、あるもの

それぞれ、「これを推したい!」という本があって、それを核にテーマを定め、周りに並べる本を揃えてきました(このあたりの選書の方法については、以前「本の市の本」に寄稿させていただきました)。

だいたい数ヶ月〜半年ごとに棚の本の入れ替えを行ってきましたが……はい。お気づきのとおり、昨夏「ないもの、あるもの」を始めてから、一年が経ってしまいました。

昨年10月に企画した「池上線100周年記念 沿線“本”まつり」に注力しすぎてガス欠になった、年始から春にかけて「本業」が多忙すぎた、しっくりくるテーマが定まらなかった……等、理由・事情はいろいろあるのですが、一年間も棚の入れ替えができなかったことは、本当に慚愧に堪えません。

でもこの度ようやく、ようやく、新しいテーマ棚を用意することができました!

伊藤亜紗さんと読む “体”がひらく世界

明日7月14日(金)より、スタートします。

伊藤亜紗さんをご存知でしょうか?

視覚障害、吃音、四肢の欠損等々、さまざまな「障害」を通して、人間の体のあり方、そしてそこから見えてくる(この言い方自体が視覚に偏っていてあまりよくないのですが)新たな可能性、世界について探求している研究者です。手掛けていることは、社会的には決してメジャーではない分野のことと言えるかもしれませんが、その視点と考察はたいへんユニークで、現在、非常に注目されている方です。その著作にはコアなファンが少なくありません(もちろん、私もその一名です)

私が伊藤さんのことを知ったのは、おそらく一般書としては最初の著作『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社新書、2015)を通してでした。

当時、私は健康情報誌の編集をしており、そのなかで医療・健康についてちょっと変わった角度からアプローチしている本を紹介する書評ページを手掛けていました(ほぼ自分の趣味で)。書店で偶然だったのか、書評等で見つけたのか、今ではもう記憶が曖昧ですが、刊行からあまり遠くないタイミングでこの本を知り、一読してグッと引き込まれました。

もう時効でしょうし(2015年の記事)、そもそも自分で書いた原稿なので、そのまま掲載致します。

「月の形をイメージしてください」ーーこう尋ねられると、多くの人が(三日月や半月も含めて)円形を思い描くと思います。ところで、そこに「裏側」はありますか? おそらく、自分に見えている面だけの二次元的なイメージではないでしょうか?  一方、同じ 問いに対して目の見えない人は、裏表のない球体をイ メージすることが多いそうです。
 同じものを見ているのに、捉え方は大きく違っている。でも、どちらも間違いではありません。目の見える人には、目の前に見えている世界が「当たり前」に感じられるものですが、どのような視点で世界に接し、把握するかによって、世界のあり方は大きく書き換えられるのです。本書では、視覚障害者の人たちが世界を「見る」あり方を入り口として、「当たり前」を一度解きほぐし、それだけではただバラバラに存在するさまざまな情報を、新たな「意味」のもとに把握し直すことの魅力や可能性について論じていきます。
 視覚の障害に限らず、「自分とは異なる身体を持った人」の世界を想像することは、超高齢社会となり、いずれ誰もが何らかの障害を持つ可能性がある時代を迎えるにあたって、そこで皆が気持ちよく生きていける社会を築いていく際に、欠かせない視点になるのではないでしょうか。

一昨年の東京パラリンピックを経るなど、今でこそ「障害」は(本来的には)決してないこと、マイナスなことではなく、そこから私たちの知らない豊かな世界につながることが(それでもまだ)少しずつ知られるようになってきましたが、本書の刊行当時では、非常に革新的な内容だったと思います。

その後、本書はヨシタケシンスケさんとのコラボで絵本のベースにもなり、ロングセラーの本書にはヨシタケさん画の総オビが巻かれるほどに。

ちょっとした縁があり、上記の書評記事を作成した直後に、本当に偶然に、伊藤さんと直接会う機会に恵まれました。今回のテーマ棚の企画は、その縁に頼っている部分もあります。シンプルに伊藤亜紗さんの本を並べているだけではなく、今後ちょっとした企画も予定しております。

伊藤さんに偶然お会いした、多摩川での「川見」イベント

池上ブックスタジオにお越しいただいて(or 伊藤亜紗さんの著作に触れていただいて)、ぜひ新しい世界の見え方を探してみてください。