〜本有引力〜

本と本がつながりますように

『10代のための読書地図』フェア&「10歳からのあなたに贈るブックリスト」

6月の中頃、twitterを眺めていたら、こんなツイートに目が止まりました。

つらいときも さびしいときも たのしいときも どんなときも 本がある。

『10代のための読書地図』

このコピーを見た瞬間に、心を射抜かれました。実際の内容は一文も知らないけれど、このコピーだけで素晴らしい一冊だと確信。そして次の瞬間、次回の池上ブックスタジオでのお店番(8/14・土)の企画と、それに絡めて自分の本棚の入れ替えテーマのアイデアが降ってきました。

池上ブックスタジオは、呑川を挟んで目の前に小学校があるというロケーションもあり、開店日にはいつも多くの小学生が足を運んでくれます。そんな縁もあるので、今回はこの『10代のための読書地図』を“いちばん売りたい一冊”に選び、私の本棚でも『10代のための読書地図』にちなんだ本を並べようと考えたのです。

昨年は新型コロナの問題で夏休みの期間が大幅に短くなりましたが、(コロナはまったく落ち着かないものの)今年は通常どおりの夏休みになりました。そこで、夏休みに入って最初の営業日である7月23日から、「夏休み! 『10代のための読書地図』フェア」と題して、こんな本棚にしてみました。

並べたのは、自分が10代のときに読んだ本、そして今の10代の人たちに読んでみてほしい本(どちらかというと、「自分が10代のときに読みたかった本」なのかもしれません 笑)。フェア初日には間に合いませんでしたが、版元である本の雑誌社さんの迅速かつあたたかいご対応もあって、翌週からは『10代のための読書地図』もドーンとご用意しております。

夏休みも真ん中、ちょうどお盆の最中の8月14日が、久しぶりのお店番の日でした。この日の企画は、『10代のための読書地図』をメインに掲げながらの「本のよろず相談室」。ひとくちに10代といってもとても幅広いので、池上ブックスタジオによく訪ねてきてくれる小学校高学年の子どもたちのことをイメージして、「池上ブックスタジオの棚主たちのおすすめブックリスト」を用意。そしてそこに挙げられた本や、ブックスタジオの棚に並んでいるもののなかからおすすめしたい本を、中央のテーブルに並べてみました。

お盆の真ん中、そしてオリンピックが閉幕した最初の週末で新型コロナの感染状況が芳しくない状況下、さらには雨模様の天候ということで、割とひっそりのんびりの一日になるかな、という感じでスタート。

はじめのうちは、お客さんもポツポツとで、一対一でゆっくりお話をするようなのんびりムード(それはそれで、とてもよい時間なのです。特に雨の日)。そこから一転、後半はご近所の小学生とそのご家族、また棚主仲間を中心に多くのお客さんが訪ねてきてくれて、本の話をしたり、子どもたちが思い思いの遊びをしたりと、笑顔の絶えない時間が続きました。

でも特に印象的だったのは、その皆さんがテーブルに並べた本を思い思いに読み込む姿。比較的多くの方がいらっしゃった日だったかと思いますが、これほど皆さんが一同に本を読むことに専念される様子は、これまであまり見たことがなかったように感じます。池上ブックスタジオにおける「読む時間」(アンドレ・ケルテス)ーー

お客さんや、代わる代わる訪れてくれた棚主仲間と話をしながら、「おすすめする本を選ぶ」ということについて、いろいろ考えることがありました。

夏休みの企画ということもあり、やっぱり読書感想文のことは少し頭の中にあり、また何度か話題にも上りました。おそらく私が子どもの頃もそうだったと思いますが、昔も今も、読書感想文って人気のない宿題のようですね(笑)。苦手、楽しくない……ネガティブな意見は多いようです。

ブックスタジオに来る子どもたちや棚主仲間だけではなく、これまでもいろいろな人と話をしましたが、「本は好きだけど、読書感想文は苦手・嫌い」という人がとても多い印象。読書感想文って、どうして楽しくないのでしょう。いろいろ話をしたり、さまざまな情報を見ていると、「正しく書かなきゃいけない」という意識があるから、というのが一つの理由なのかな、となんとなく感じます。

「読書感想文の書き方」みたいなガイドもあるし、学校側でも段階を踏んで最終的に何百字かの作文になるようなフォーマットを用意してくれたりしている模様(わが子の学校は読書感想文の宿題はないのですが、他校のものを見せてもらいました)。……でも、これって本当に「感想文」でやりたいこと?

もっと、自由でいいんじゃないでしょうか。文章を書くことの得意・不得意はそれぞれあるでしょう。でも、読んでみたらおもしろい本があって、それを誰かに話すようなつもりで書き留めてみる……なかなか悪くない、そんなにも毛嫌いされることはない営みだと思うのです(笑)。それをきっかけに、同じ本を読んだ人と話が広がるし、その本を読んでそんなことを考えたのなら、次はじゃあこんな本があるよ……とつながっていくかもしれない。そこに「正解」や「正しさ」はありません。

ただ、意外と一筋縄でいかないのは「課題本」の存在。

「課題本がおもしろくなかった」という声も、今の子どもたちから自分の同世代まで、かなり多く聞かれます。個人的には、近年の課題本はなかなかユニークな視点で選ばれていていいなぁとは思うのですが、確かにこの「課題本」がある種の規範のようになって、難しさや取り組みにくさを生んでいる面はあると思います。だって、「課題」って言われた時点で、なんだか嫌になりますよね(笑)

ちょっと話が遠回りになりましたが、ここで「おすすめする本を選ぶ」というトピックにつながります。

誰かに本をすすめるとき、そこには「これはいい本だよ」というメッセージが乗ることになります。でも「いい本」って何だろう?

好みや関心、何に心を打たれるかは個人個人によるものだから、あくまでその人にとっての「いい本」なのかもしれません。でも、なぜか本というものには、実際以上に「いい本」の呪縛がかかっているように思うのです。本そのものが、実態以上に“優等生”の役割を与えられてしまっているのではないでしょうか。

本を読む子どもは「すごいね、えらいね」と評価されるーーよく見聞きすることだと思いますが、本を読むことってそんなに特別なことなのでしょうか。ゲームだって、スポーツだって、絵を書くことやものづくりだって、何であれ「好き」で熱中できることがあるということは、それだけで素敵なことだなぁと思うのです(そして、それは別に「すごい、えらい」ことでもない)。でも、なぜか本は、ちょっと特別なものと見なされているところがありますよね。ほかのことに比べて、ちょっと勉強に近いところに位置づけられているのかしら。

今回、棚主仲間から「おすすめする本、マンガだけどいいですか……?」という質問がありました。もちろん、どうして?ーーと思いますけれど、でもそう尋ねてくれた棚主さんの気持ちもよ〜くわかります。やっぱり、本というものがちょっと特別な、規範的なものであるという空気が存在しているのですよね。

でも、本自体、もっともっと自由なものだと思います。文字の本が偉くてマンガはそれよりも下位の存在なんてことはなく、どんな本もそれぞれに意義があり魅力がある。きっちりしてて正しいことが書かれているのが本ではなく、へんてこな本、わ〜るい本もひどい本もいっぱいある。そういうものもすべて含めて、本って本当におもしろい。

それなのに、「本は特別なもの、いい子ちゃんなもの」という意識がうっすらと存在し続けるのはなぜなんだろう。一つの理由に絞り込めることではないけれど、本というものの規範意識を高めてしまう“刷り込み”が、社会のあちこちに幾重にも存在しているのではないかと思います(読書感想文、課題図書などはその最たるものかもしれませんね)。

「おすすめする本を選ぶ」という行為も、実はその一つ。広く多くの人に届けようとすればするほど、どうしても「誰にとってもいい本」に向かってしまう傾向がありますよね。それ自体はしょうがないし、全然悪いことではない。ただ、私や、あるいはほかの誰かが「おすすめ」として選んだ本は、それを受け取る人にとって本という大きな森のイメージを形づくる重大な要因となるーーそのことについては、常に自覚的でありたいと思っています。

活字離れ・本離れ、出版不況と言われて久しいですが、本を読む人はたくさんいるし、そういう人たちが好む「本についての本」も非常にたくさん作られています。もちろん、本当にユニークで魅力的な本がいっぱいなのですが、なんとなく、まだまだ全体に「いい本」寄りな気はするのです(自戒を込めて、私自身が日々手にとる本を見ても、まだまだその傾向が強いように思います)。

そんななかで、30×30cmの小さい棚でできること。小さいけれど、小さいからできることもありそうです。また、今回、棚主のみなさんの協力をいただいておすすめ本のリストを作れたように、小さな棚どうしがつながることで、よりおもしろい発信ができるかもしれません。「おすすめする本を選ぶ」のは、確かにちょっと難しいところもあるけれど、でも創造的で楽しい営みでもあります。ブックスタジオからおすすめする本が、誰かにとっての本の概念を広げることにつながることがあれば、本当に嬉しいなぁと思います。

(私自身も、まだまだ新しい世界を知りたい!)

今回、おすすめ本のリストを作るということをしてみたことで、「あ、その本、私も好きでした!」という声がいくつも上がり、そこからまたさまざまな会話が広がっていきました。

「読む時間」は、一人ひとりの営み。でも、その一冊を読んだ人、すなわち同じ経験を共有している人は世界にもっともっとたくさんいます。本を読むということは、世界とつながる“鍵”を手に入れること。たくさん持っていたら、人生はもっと楽しくなりますよね。だから、本は紹介したいし、紹介してほしいなぁと思います。

そして、同じ鍵を使って、同じ一冊の本の世界をほかの人たちと巡るのも、とても魅力的な経験です。ということで、せっかくリストを通じていくつかの本の話に花が咲いたので、秋には一つ、読書会を開いてみたいなと思っています。

※さるうさぎブックスの棚の「『10代のための読書地図』フェア」は、9月に入ってからもしばらく継続する予定です。

※「10歳からのあなたに贈るブックリスト」も、在庫有る限りは池上ブックスタジオに置いておきます。ご興味ありましたら、ぜひご覧ください。