〜本有引力〜

本と本がつながりますように

プラハとベルリン、本の旅(3) 赤いゾウとオセロット

前回は、池上ブックスタジオで始めた新しいフェアについてご紹介しましたが、再びプラハとベルリンの旅に戻りたいと思います。

最初の記事で述べたように、今回の旅の主目的はベルリン。でもせっかく遠い欧州の地まで足を伸ばすので、ドイツ・ベルリンとは異なる雰囲気を味わえて楽しめる町も訪れてみたい。そこでベルリンから比較的アクセスしやすい町を探してみた結果、プラハを訪れることにしたのです。

空便の旅程としてはベルリンin・ベルリンoutだったので、先に遠方にあるプラハを訪問し、残りの時間をゆっくりベルリンに滞在しようと計画を立てました。幸い、往路便のベルリンへの到着は朝9時。ちょっとハードな行程にはなりますが、そのままベルリンから列車で移動すれば、午後早めにはプラハに到着できるスケジュールです。

そのつもりで各町の宿泊先や特急列車の手配を進めていたのですが……なんと出発2日前になって、私たちが到着する日に、ドイツ全土で交通ストが行われることが決定したのです。

国際線を含めて都市間を移動する特急列車はすべて運休、空港も機能をストップするとのことで空路も不可。バス移動という方法がないわけではなかったのですが、こちらも高速路のトンネルなどが閉鎖される可能性があり、無事到着できるのかまったく見込みが立たず。さすがに子連れで(かつ空路からそのままの移動で)この選択肢を選ぶことはできませんでした。

他の空港はすべて運休で国際線もすべてキャンセルされるなか、ベルリン空港だけは唯一稼働していて入国できたこと。またベルリンの市内交通も、郊外列車(S-bahn)以外の交通機関ーー地下鉄、バス、トラムーーは通常どおり動いていたこと。これは不幸中の大きな幸いでした。急ぎ宿泊や交通の予約を調整し、到着した日はベルリンにとどまって市内を歩き、翌朝いちばんにプラハ行きの列車に乗ることにしたのです(そこから、もともとの旅程を一日分ずつずらすかたちに)。

そんなわけで、まずは一日、ぶらりとベルリン市内を歩くことから始まった旅。さっそく本の場所との出会いが待っていました。

プラハ同様、ドイツ語もちゃんとは理解しておらず(簡単な買い物くらい)、英語サイトも十分に渉猟はできていないので、直に見た印象の話としてご理解いただければ幸いです。

Map dataⒸOpenStreetMap contributors

①Library of the German Bundestag(図書館)
ベルリンの街を歩き始めて割とすぐに、モダンな建物が気になって何なのかを調べたら、図書館でした。ちょっと外から見た様子も、Google Map上の情報を見ても、現代的でなかなかおもしろそうな様子。ベルリンの観光エリアの中心地であるウンター・デン・リンデンに近いところにあり、いつでも訪れられそうだったので、「後で寄ってみようね」と言っていたのですが、なんと土曜日は休館で結局訪れられず……(泣 旅程が一日ずれたことの影響がこんなところに)

②Staatsbibliothek zu Berlin - Preußischer Kulturbesitz(プロイセン文化財ベルリン州立図書館)
こちらもウンター・デン・リンデンにある図書館フンボルト大学の隣にあり、荘重な建物からもアカデミックな雰囲気が感じられます。

1階部分にはギャラリーもあるようで、文字についての展示が行われているようでした。内部は宮殿のような立派なつくりで、閲覧室への入り口は大きな中央階段を上がった2階部分。ゲートがあって入館前のチェックがあるようです。

「旅行者なんですが、中に入ることはできますか?」と尋ねると、荷物は1階のロッカーに置いてくること、入ることは可能だけれど見学目的であれば15分程度で、とのこと。利用登録している人だけが入れるという仕組みのようです。

ゲートを通ると、中央は広々としたフロアで、3階、4階は広い側廊のようになっていて書架と閲覧・作業席が並び、高い天井まで吹き抜けになっている構造(訪れたことがあるところでは、神奈川県の海老名市立中央図書館にちょっと似ていましたが、サイズ感はこちらが圧倒的に大きいです)。天井からは現代アート的なオブジェが下がっていました。

書架の本を見ると、専門書が圧倒的に多く、利用している人たちの様子を見ても、読書を楽しむというより、ほぼ勉強か仕事をしているようでした。児童書や娯楽的な一般書がどうにも見つからず、子は早々に飽きてしまったよう(15分くらい、確かにちょうどよかったかも 笑)。美しい場所で雰囲気は非常によいだけに、ちょっと残念。

もっとも、この図書館に児童書などがないわけではなく、宮殿のような建物の別の場所に部屋があるようでした。残念ながらそちらは17時でクローズらしく(到着した時点で17時半くらい)、見ることができませんでした。何にせよ建物自体が大きく、一通り見て回るだけでもかなり歩くことになる場所でしたが、せっかくなので隅々まで見てみたかったです。

③Buchhandlung Walther König an der Museumsinsel(書店)
おしゃれなショッピングエリア・ハッケシャーマルクトから博物館島(ペルガモン博物館など著名な博物館が集中している中洲の島)のほうへ行くところにある書店。正面から見た以上に、店舗は奥までとても広く、かなりの本があります。特にアート系の本が充実していて、この日は絵画集などのビジュアル本の割引フェアが行われていました。児童書もたくさんあって、子どもも楽しめる書店です。

下写真の右奥の猫は、なんと川村元気さんの『世界から猫が消えたなら』の英語版。このお店に限らず、ベルリンではレジ近くやメインの平台に、英語の本が多く置かれていたのが印象に残っています。

④Zentral- und Landesbibliothek Berlin(ベルリン州立中央図書館)
プラハを訪れ、再び戻ってきてからのベルリン散策。あまり天候が優れず(特にお昼以降)、小雨の降るなか、あるいはにわか雨の合間を縫って、あちこち訪ねてみました。

そのなかで、②Staatsbibliothek zu Berlin からほど近いところにもう一つ図書館がありました。入口のガラスドアには、さまざまな書体の「A」が飾られていて、これだけでなんだか楽しい気分に。

入ってみると、なんとなく日本の普通の公共図書館と似た雰囲気を感じます。受付の人に「旅行者なんですけど、入ってもいいんですか?」とおそるおそる聞いてみると、全然問題ないよ、とのこと。ホッ。

整然とした書架と閲覧スペースがあり、一部の本がピックアップされて見やすく展示されていました。1階にあったのは、理工・医学系の本、料理やヨガなどライフスタイル関連をはじめとする実用書など。分類もわかりやすく利用者にやさしい構成でした。

歴史や人文、文学、あとおそらく児童書などは2階にあったようなのですが、今回も残念ながらギリギリ時間オーバー(~17時)、見ることがかないませんでした。

音楽CDや映画のDVDなどソフト系の貸し出しもある様子。自動貸し出し機があるところも、最近の日本の図書館と似ているところでした。

ロビーのほうにはちょっと変わったデザインの椅子があって、のんびりくつろぐこともできます。バックギャモンみたいなゲームで遊んでいる人たちがいましたが、たぶんそうしたゲームの貸し出しもあるのではないかと思いました。

⑤Philipp-Schaeffer-Bibliothek(図書館)
街歩きの最終日は土曜日。そのため、開館していない図書館も少なくありませんでした。そんななかで、14時までと短いながら開いているという図書館Google Mapで発見。

路面店ではなくて、通路を抜けた敷地の奥、中庭のある古い建物の中にありました。入ってみると、④の図書館以上に、日本の町の図書館と同じような雰囲気。とっても落ち着きます。

探偵モノやファンタジーなどは、棚の側面に描かれたイラストでジャンルがわかる(しかもそのイラストがおしゃれ)。表紙を見せる本の並べ方もスマートで、とてもいい雰囲気です。日本のコミックスをはじめ漫画も充実していて、子はすっかり読みふけっていました。

素晴らしいのは2階の閲覧スペース。中庭に面していてとても明るいのです。この日はあいにくの雨だったのに、まったくそんなことを感じない心地よい空間でした。

1階、2階の図書館部分だけでも十分に素晴らしかったのですが、そこからさらに地下階に降りていくと……そこにはもう一つ、夢のような空間がありました。

Der rote Elefant

「赤いゾウ」ですね。児童・青少年向けの本の企画運営団体による施設のようでした。

小さい子どもたちが、自分の好きな場所で(隠れても閉じこもってもOK)本を読めるように、そのサイズ感に合わせて、たくさんのスペースが用意されていました。そして、どこに行っても手を伸ばすと絵本・本が置いてある。

絵本、読み物、ビジュアルメインの本、コミックスまでさまざまな本があり、さらにゲーム機のソフトまでありました(その場でもプレイできるし、貸し出しもあり)。お話し会などのイベントができるスペースや、天窓の下の明るいところにギャラリーもあり、本を読むもよし、ゲームをするもよし、ただのんびりぼーっとするのもよし。本当に素晴らしい空間でした。

受付のところにいる司書さん?はニコニコ笑顔で、子どもたちが次々と相談やお願いにやってきていました。あまりに素敵な光景で、「ここは本当に素晴らしいですね!」と思わず司書さんに話しかけてしまいました(ヘンな人ですよね)

1時間半もいられなかったけれど、それ以上開いていたら、子も自分もたぶんずっとここに居続けてしまったと思うので、それはそれでよかったのかもしれません。

ガイドブックにはもちろん出ていない場所(ネットでも日本語で書かれた情報は見つけられませんでした)。プラハでもそうでしたが、こういう出会いこそが、本当に旅の醍醐味ですね。

⑥Ocelot(書店)
⑤に隣接する、とてもおしゃれな、カジュアルな雰囲気で入りやすい書店。店名の「Ocelot」はシュッとしたネコ科の動物で、ロゴやグッズに描かれています。入り口側はゆったりとしたカフェで、若いお客さんが多く集まっていました。

手前側には特集棚やレクラム文庫のラックなどがあって、大判の写真集や料理書、奥には児童書もたくさん。ソファーもあってゆっくり読むことができます。また、ZINEみたいな本のコーナーがあったり、センスのよいオリジナルグッズも多々と、充実したお店でした(隣の図書館と合わせて、本好きには大満足の場所)。

⑦Bücher Für Alle(電話ボックス図書館)
『ベルリンうわの空』にも登場する、使われなくなった電話ボックスを活用した街角図書館。実はこの前にもう一箇所、地図情報を頼りに行ってみたものの空振りしていたので(存在はしていたものの朽ちている感じで、ドアが開かなかった)、改めて発見できてうれしさもひとしお。

並んでいるのは本だけじゃなく、ゲームブックや衣類まで! ……でもこれ、持っていっていいのか、レンタルなのか(あるいは物々交換的な?)、ちょっとわかりませんでした。

⑧Dussman(書店)
最後に訪れたのは、地下1〜4階まである巨大な書店。日本で言えば丸善ジュンク堂紀伊國屋書店のような総合書店というイメージでしょうか。でも、並んでいるのは本だけじゃなくて、文具、おもちゃ、本関連のさまざまなグッズ、さらには季節のお菓子まで。趣味・娯楽的なものであれば、正直、ここだけでなんでもそろうんじゃない?というくらい非常に充実したお店でした。

店内に活版印刷機があったり(実際にワークショップ的なことも行われていそう)、本と関連するグッズを一緒に並べるなど工夫を凝らした棚作りがされていたり、おもいっきりおもちゃで遊べるスペースがあったりと、とにかく至れり尽くせり。しかも空間として非常に美しい!

たぶん、ここだけに数日間ずっといてもいいくらい、満足度の高い場所でした。

 

最後におまけとして、開店時間には行けなかったお店を。滞在していたホテルの最寄り、SavignyPlatz駅のすぐ近くに2軒の書店がありました(1軒は線路のガード下)。ずっと歩き回っていたら、どちらも開店時間に訪れられず……特にガード下の書店はとても魅力的な雰囲気だったので、訪問できなかったのが悔やまれます。


……でも、(書店についての話ではありませんでしたが)「次来たときは、あそこに行ってみたいな」という子の発言のとおり、また、いつか来ればいいんですよね。この街を、あの場所を、また訪れようーーそう思えたということはいい滞在だったという証拠。そして、そういう思いがあれば、これからの日々も楽しく、充実したものになっていくのではないかと思います。

プラハの、ベルリンの本の場所を再び訪れる日を夢見て。そして、まだ見ぬ新しい本の場所との出会いを楽しみに。