〜本有引力〜

本と本がつながりますように

ワクワクおいしい 世界のはなし(池上ブックスタジオイベント)

7月21日(金)・22日(土)の2日間、池上ブックスタジオでは「ワクワクおいしい 世界のはなし」というイベントが開催されました。
おかし文庫さん・はいくやさんの共催)

おかし文庫さん&はいくやさん謹製のフライヤー

『世界の食卓から社会が見える』と『あさごはんで世界いっしゅう』&『おまつりとごちそうで世界いっしゅう』という2種の本を取り上げ、食を通して世界のさまざまな文化に触れるという催し。著者、イラストレーター、翻訳者という本づくりに携わった方を招いての特別トークも行われる、なんとも充実の構成です。夏休みの最初の週末、宿題や自由研究のヒントにも、休暇中の旅のイメージを膨らませるにも、とても素晴らしいタイミングの企画でした。

“世界の台所探検家”岡根谷実里さんが、「世界一おいしい社会科の教科書を作りたい」という思いで手掛けた『世界の食卓から社会が見える』(大和書房)

誰もが毎日関わっている「食べる」という営み。当たり前のように、いつもの食事を口にしているけれど、そこからふっと浮かんだ疑問を少し掘り下げてみると……地理、歴史、宗教、政治などなど、「食」は世界に通じる窓です。単に食べる、おいしいということを超えて、社会を、世界を考えることにつながる、アクティブな教科書といえる一冊です。

『あさごはんで世界いっしゅう』&『おまつりとごちそうで世界いっしゅう』(汐文社)は、6月末に2点同時に刊行された、食と世界にまつわる翻訳絵本。朝ごはんと、おまつりのハレの食事というテーマで、国から国へと移動していくように、それぞれの文化が紹介されていきます。

原書はそれぞれ「Pancakes to Parathas ~Breakfast Around the World~」「Feast and Festivals Around the World ~From Lunar New Year to Christmas~」という海外の絵本。この絵本について興味深いのは、原書のイラストを手掛けているのも日本のイラストレーターさんだというところです。

そのイラストを描いたスズキトモコさん、そして文章を翻訳した翻訳者の星野由美さんが、7月22日(土)に池上ブックスタジオに来てくださいました。

さらに、『世界の食卓から社会が見える』の著者・岡根谷さんも、なんと取材で訪れているブータンからzoomでブックスタジオに登場。前半は星野さん×岡根谷さん、後半は星野さん×スズキさんによるクロストークが行われました。

岡根谷さんは、ブータンで訪問していた家からの接続。これからお昼ごはんをつくるところを見せてもらうとのことでしたが、絵本のタイトルにも絡めて、「朝ごはん」を切り口にトークは進んでいきました。

……と言っても、私たちは「朝ごはん」を何気なくごく自然なものとして捉えがちですが、それほど確たるものではないのでは?という岡根谷さんからのハッとさせられる問いかけから、話は広がっていきます。

ちょっと考えてみるだけでも、ごはん(米)かパンか/どんなおかずを食べるのか/そもそも朝ごはん食べない人だって少なくない……というように、日本の朝ごはんだけでも決して一様ではありません。

他の国や文化に目を向けた場合、より一層その多様さは広がります。そもそも気候や文化によって食文化自体に違いがあり、食材にも料理にも、食べる時間や様式にも、それぞれ特徴があるのはもちろんなのですが、同じ文化においても、各家庭ごとに、あるいは同じ家庭のなかでさえも、朝ごはんの在り方は異なっていることも少なくありません。

だからと言って、それは決してみなてんでんばらばらということではなく、地域や文化という大きな枠組みから、家族内に見られる個々の生活スタイルに至るまで、朝ごはんの在り方に一人ひとりの人の、そして一つひとつの家族の「暮らし」の在り方がのぞいていて、さらにそれが重なり合うことである集団や文化の「暮らし」のかたちが見えてくるのでしょう。お二人のトークを聴きながらそんなことを考えました。

岡根谷さん、星野さんにとっての印象的だった朝ごはんのエピソードをお聞きして、トークはいったん中締め。続いて始まったスズキトモコさんと星野さんのトークは、今回の絵本が刊行されるに至るまでのお話を軸に進んでいきました。

前述のとおり、海外で刊行された絵本ですが、出版社がおそらくインターネットを通じてスズキさんのイラストを知り、本のイメージに合うということで依頼をしてきて、『あさごはんで世界いっしゅう』の原書が出来上がりました。すると、この本を星野さんがやはりインターネットで発見、ぜひ翻訳したいと考えて、日本の出版社に働きかけたことで、今回の翻訳出版につながります。

イラストを手掛けることになったのが日本人だったのは偶然でしたが、そのおかげで原案・原文にあった日本の食文化についての微妙な誤解が解消されたこと(スズキさんはイラストだけでなく、その点については校閲にも関わったと言えますね)。なかなか進まなかった企画が、スズキさんのイタリア・ボローニャ国際絵本原画展入選、および板橋区立美術館から展示が始まることが決まったことで、一挙に2タイトル同時刊行に至ったこと。――ふだんはあまり聞くことのない絵本ができるまでのお話を、たっぷり堪能することができました。

なごやかなトークとともに、スズキさんのイラスト原画の展示も。また、ブックスタジオの棚主有志による「旅の本」の展示販売も併せて行われ、ブックスタジオの一画が、本を通して旅気分を味わえる・旅心を刺激される空間になりました。

イベントは2日間のみでしたが、ゲストでお越しいただいたみなさんの本は、引き続きブックスタジオでも、またそのほかの書店でもご覧いただけます。夏休み、あるいは秋の行楽シーズンに向けて、ぜひ旅の本を大いに楽しんでください。