〜本有引力〜

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プラハとベルリン、本の旅(1) はじまりは『ベルリンうわの空』

前回に引き続いて、子の卒業にまつわる本の話。

3月末から1週間強、小学校の卒業式を終えたばかりの子と二人で、プラハ・ベルリンを旅してきました。

旅のきっかけは、ベルリン在住の漫画家・香山哲さん『ベルリンうわの空』でした。

2022年の春先頃、子が新型コロナに罹患し、10日近くも閉じこもっての生活を余儀なくされました。幸いに体調は早々に回復したので、当然ながらかなり時間を持て余すことに。好きな映画やアニメの視聴、本人の好きな本や漫画を投入するも、まだまだ足りず、自分の本棚にある本や漫画で「これは読む・読めそうかも?」と思ったものをもいくつか手渡してみることにしました。

そのうちの一つが、『ベルリンうわの空』(全3冊)でした。

『ベルリンうわの空』

『ベルリンうわの空 ウンターグルンド』

『ベルリンうわの空 ランゲシュランゲ』

ある意味ノンフィクション的な、暮らし・生き方・人についての本なので、そんなに興味ないかな?と思っていたのですが、意外やじっくりと読み込んでいる様子。

読み終えて感想を聞いてみたところ、デポジットの瓶(ドイツでは一般的に、ビールをはじめとする飲料の値段に容器のデポジット料が含まれていて、瓶やボトルをお店に持っていくとクーポンなどのかたちで返金してもらえます)を換金せずに敢えて街中に置いていってあげることとか、酔っ払ったり気持ちが乱れて混乱している人のことをそばにいる人が黙って抱きしめてあげる描写などを見て、「ベルリンって、日本より優しいんだね」と言ったのでした。

子が小学1年生のときに家族で台北に行ったことがあるのですが、その際は、飛行機で酔ってしまったり、現地でも独特の香辛料のにおいや味がそこまで合わなかったり、あちこち回って疲れたり……ということもあり、以来あまり外国旅行には興味を示してきませんでした(むしろ消極的だった)。そんな彼が、ポロッと「ちょっとベルリン行ってみたいかも」と口にしたことには、非常に驚かされました。

そこまで強い気持ちやこだわりがあったわけではなく、なんとなく述べただけのことかもしれないけれど、でもそのちょっとしたものを大事にしたほうがいいのではないかーーそれ以来、こういう思いがずっと頭の片隅にあり続けたのです。

『ベルリンうわの空』は私自身、深く打たれた作品です。何気ない日々の暮らしの描写のなかに、生きるとはどういうことなのか、ということを考えさせてくれるヒントが、あちこちにちりばめられています(作中で重要な鍵となる「シール」のように、決して目立つようにではなく、でもちゃんと目に留まるように)。

特に好きなのは2巻目の「ウンターグルンド」。好き、というのもちょっと難しいのですが、3巻のなかでいちばん、読み進めるのに時間がかかりました。描かれている内容が、いちばん重いのだと思います。重い=しんどいということではなくて、やはり「生きるとはどういうことか」というテーマに最も深いところまで迫っているのではないかと思います(untergrund=地下だけに!)。エピローグは本当に圧巻です。

二人で読んで話をした直後に、ロシアによるウクライナ侵攻が起こりました。登場人物の一人・スタンは、キエフから来ていたんだよね、なんてことも話したりと、私たちと世界の距離をぐっと縮めてくれた作品でもあります。

「ベルリンに、何をしに行く(行った)の?」という質問を、結構多くの人から受けました。確かに、観光名所的なものはもちろん多々あれど、でも小学生の子供と楽しんで回る、というところはあまり思い浮かびません。私自身も最初は、どんなところに行き、何を見ればよいのか、あまりイメージが湧きませんでした。

でも、“きっかけ”に戻れば割と答えはシンプルで、「『ベルリンうわの空』に描かれているようなベルリンの町を、自分たちの足で歩く」。それが今回の旅のいちばんの目的のはず。わざわざ遠路はるばる訪ねて、それだけ?と思う方も少なくないでしょう。でも、それがいちばん楽しくて、いちばん充実した過ごし方だった、と改めていま、感じています。

そうしてとにかくあちこちを移動し歩いたベルリン(とプラハ)の旅。いちばん多く訪ねたのは、やっぱり本の場所ーー書店と図書館でした。

次回は、プラハとベルリン、それぞれで見てきた書店と図書館についてご紹介したいと思います。