〜本有引力〜

本と本がつながりますように

サン・ジョルディの日/三女ルディと本の旅

本日4月23日は、「サン・ジョルディ」の日ですね。

by rebelbooksさん

子どもをはじめ、身近な人に本を贈る、お互いに贈り合う日です。本と一緒に、楽しい一日を過ごせるとよいですね。

さて、そんなサン・ジョルディの日にちなんで、ひとつ昔話でもしましょうか。

【三女ルディと本の旅】

むかしむかしあるところに、ひとりの王さまがいました。

王さまの国の人びとは、みんな本が大好きでした。本屋さんにも、図書館にも、いつも本がいっぱい。もちろん、王さまも、お妃さまも、そして三人のむすめたちも、本が大好きでした

ところが、あるときから、一さつ、また一さつと、この国から本がなくなっていってしまったのです。本屋さんからも、図書館からも、みんなの家の本だなからも。

作家たちはがんばってものがたりを書き、印刷屋さんはいっしょうけんめい本を刷りましたが、それでも本はどんどんなくなっていきます。人びとは本を楽しむことができなくなり、国全体が暗く悲しい気持ちにおおわれてしまいました。

「なぜこの国から本がなくなってしまったのだろう」
王さまは悲しそうに言いました。
「お父さま、わたしがそのなぞをときあかしてまいります」
そして、いちばん上のむすめはなぞをしらべる旅に出ました。ところが一か月、三か月、そして半年たっても、いちばん上のむすめは帰ってきません。

そこで、二番目のむすめが、次に旅に出ました。ところが一か月、三か月、そして半年たっても、二番目のむすめも帰ってきません。

「お父さま、わたしが行って、なぞをときあかし、そしてお姉さまたちを探して帰ってきます」
三番目のむすめルディは、王さまにそう言いました。
「お前までいなくなってしまったら、私たちはどうしたらいいのだね」
王さまとお妃さまはそう言ってルディをひきとめました。
「大丈夫。きっとうまくいきます」
そして、三女ルディは二人の姉に続いて旅に出ました。

ルディは、城を出るとまっすぐ歩き続けました。しばらく行くと、荒野に出ました。そこには三人の魔女がいました。
「いったいどこへ行くんだね?」
一人目の魔女がたずねました。
「王さまの国から本がなくなってしまったひみつを探しにいくの。二人の姉が先に出かけていったのだけど、ご存じないかしら?」
「ああ、知っているとも。そのむすめたちは、私たちの予言を受け取っていったよ」
二人目の魔女が答えました。
「わたしにもその予言を教えてください」
「いいだろう。“本の森が動くとき、魔法の力はとけるだろう”」
三人目の魔女が言いました。
「ありがとう、きっとおぼえておくわ」

ルディはさらに歩き続けました。しばらく行くと、街道に出ました。そして、りっぱなよろいをまとい大きな槍を持ってロバに乗ったのっぽの男と、ロバのたづなを引いて歩く小太りの従者がやってきました。
「このあたりは山賊も出るぶっそうなところ。小さな女の子がひとりで歩くのはとても危ない。いったいどこへ行かれるのか?」
のっぽの男がたずねました。
「王さまの国から本がなくなってしまったひみつを探しにいくの。二人の姉が先に出かけていったのだけど、ご存じないかしら?」
「残念ながら、貴殿の姉ぎみたちのことは知らない。だが、それこそきっと私が救うべきうるわしの姫ぎみたちであろう。サンチョよ、さあ行くぞ」
のっぽの男と小太りの男は、ルディと一緒に歩き始めました。

三人は、森を抜け、山を越えて歩き続けました。やがて、遠くに不思議な森が見えてきました。ーーそれは、森なのに緑ではなく、色とりどりに見えるのです。

ようやく森の近くにたどり着くと、この森の木々には、葉っぱではなく、本が生えていたのです。そして見ている間にも本はどんどん増え続け、本でできた木々は大きくふくれ上がり、まるで巨大な竜や巨人のように見えました。そして、そこではたくさんの人ーーいえ、さまざまな妖精たちが、魔法にかけられたかのように、本に読みふけっているのでした。

「あら、あそこにいるのはお姉さまたちだわ」
ルディは、二人の姉が森のなかでうっとりとしたように本を読んでいるのを見つけました。ルディは二人のもとへ行こうとすると、
「やめておきなさい。あなたもきっと、魔法の力にとりこまれてしまうから」
美しい姿をした妖精の王さまが現れて、ルディにそう言いました。
「私がうっかりまちがった魔法をかけてしまったために、この森は世界中から本を引き寄せてしまい、そして森に足を踏み入れたものは、その本に魅入られてしまうのだ」
二人の姉も、魔法の力で本の森に引き込まれてしまったのです。
ルディは、二人の姉のことを助ける方法を考えていましたが、森のなかの本を見ていると読みたい気持ちがわいてきて、一歩ずつ一歩ずつ、森に近づいていきました。なんとかがまんして踏みとどまっていましたが、森の入り口はもう目の前でした。

そのときです。
「ええい、あれぞ我が姫ぎみたちをさらった、にっくき竜と巨人どもだ。さあ、かくごせよ!」
のっぽの男は槍をかまえると、ロバにひとむち。ドタドタと森の木に向かって突進していくではありませんか。
「ああ、ご主人さま。それは竜や巨人なんかじゃありませんや。ただのーーいや、本の森ですって!」
小太りの従者は大声でいさめますが、のっぽの男は止まりません。そのまま勢いよくーー

ドシンッ!!

すると、本の森はまるで悲鳴のような大きな音を立て、そして森全体が激しく揺れ動きました。嵐が通り抜けたかのようなひとときが過ぎると、森のなかにいた妖精たちはみな、我に返ったように辺りを見回していました。

「あら、“本の森が動いた”のね。もう大丈夫だわ」
ルディは森へと走っていき、二人の姉と抱き合いました。魔法はもう、すっかりとけていました。
「私があやまって森に魔法をかけてしまい、申し訳なかった。妖精たちは森に集まる本に引き寄せられ、その妖精たちを満足させるために森はさらにたくさんの本を引き寄せてしまったのだ」
妖精の王さまは、ルディたちにあやまりました。
「おわびに、風の妖精の力であなたたちの国へ送ってあげよう。ここに集まってきた本たちも、風にのって元の場所に帰っていくのだ。さあ、飛んでお帰り」

妖精の王さまが風の妖精に合図をすると、風の妖精はさっと手を振りました。すると、ごうっと風が巻き起こり、ルディたちをそれに包まれて、一気に空高くへと飛んでいったのです。森に集められていたたくさんの本も、まるで吹雪のように、あちこちへと飛んでいきました。

ルディと二人の姉は、あっという間に、そしてたくさんの本とともに、王さまとお妃さまの待つお城へと帰ってきました。三人のむすめと本が戻ってきたことを、王さまも、お妃さまも、そしてこの国の人びとも、とてもとても喜びました。

王さまは、その日を国の祝日として毎年お祝いすることに決めました。ルディのおかげで本が戻ってきたことを記念して、人びとはおたがいに、本を贈り合うようになりました。

それが今日、4月23日。こうして、この「三女ルディの日」は、みんなで本を贈り合う日になったのです。めでたしめでたし。


※この話はフィクションです。

サン・ジョルディの日に関連するモチーフを、伝統的な昔話物語の文法に乗せてつぎはぎしてみただけの物語ですが、よろしければご笑覧ください。