〜本有引力〜

本と本がつながりますように

池上線には、「街の手帖」がある

池上線は、五反田から蒲田まで15駅、片道30分ほどでたどり着きます(もちろん追い越しをする急行なんてありません)。車両もわずか3両編成の、都内の列車ではとても小さな路線です。

そんなささやかな鉄道ですが、池上線にはなんとこの路線の名前を冠する雑誌があるのです

「街の手帖    池上線」

五反田ー蒲田間を走る3両編成ののどかな路線・池上線沿線の街から、さまざまな街にまつわる話を、情緒豊かに紹介する文芸カルチャー誌です。/ターゲットは、池上線沿線の人はもちろんのこと、日本全国の「ローカル」に興味のある方たちです。(コトノハのwebサイトより)

2013年に創刊されたこの雑誌は、池上線と同じようにささやかな存在だけど、やはり池上線(とそのまわりの街)と同じようにとても奥が深くて味わい深い。どの号を読んでも、そこに魅力的な人と場が常に登場してきて、その鉱脈が尽きる気配がありません(読んでいると、そのお店に行きたくなる、その人に会いたくなる)。

そして、ひとつひとつの話題は池上線という特定の場所に深く根ざしているのに、そこで紡がれる話は、社会のこと、文化のことなど、より広い世界につながっているのです。まさに、池上線の街からはじまる、街にまつわるさまざまな話を届ける唯一無二のカルチャー誌と言ってよいでしょう。

現在31号(2019年10月)まで発行され、さらに「街の手帖 リーディング」(1、2)というフォトブック形式の特別号があります。

※今回は、「合併号2018年冬」「31号」「街の手帖 リーディング」「街の手帖 リーディング2」を販売。また、創刊号からバックナンバーすべてを、お手にとってご覧いただけます。

この雑誌をつくっているのは、コトノハという小さな出版社。

「街の手帖    池上線」のほかにも、やはり手掛けているのはこの沿線の人と関わる本です。

池上線エリアに小さなアトリエを構えるユニークな和菓子職人ユニットwagashi asobiの営みと哲学をたどった『わがしごと』

沿線に住む若き作家が綴った「誰かひとりのための物語」を、あらためて大切に一冊の本に編んだ『植物癒しと蟹の物語』(小林大輝著)

また、紙媒体・webなどさまざまなかたちで、地域の人のニーズに応えるさまざまな“編集”を実践しています。

さて、「街の手帖    池上線」のバックナンバーを辿ってみると、この雑誌が常に、池上線沿線の街・人と「本」の関わりをとても大切にしてきたことが伝わってきます。創刊一年目の後半には既に、沿線と本をめぐる特集が登場(6号)、そこから沿線の書店とともに、雑誌を通じて本にまつわる催しを企画しています。

本・書店に関わる特集や企画はその後も続いていきます。雑誌を応援してくれていた書店が閉店することになった際の記事は、現在までつながる出版・書店をめぐる課題について深く考えさせられるもので、読んでいてほろ苦さと無力感とを覚えます。

それでも、やはり本と街・人との関わりを大事にする思いは変わらず、雑誌において、そして現実の場で、コトノハさんは活動しています。2018年にはコトノハさん主催で、池上線ブックフェスタという沿線の書店や出版に携わる人々が多数参加する大きなイベントも開催されました。

今回の「沿線“本”まつり」は、この池上ブックフェスタを一つの範として始めた企画です。規模も準備も、まったく比較にならないほど些細な催しで、また沿線の書店さんをはじめとして、声をかけるべき場や人に十分にアプローチできていない点は、大変残念に感じております。

それでも、池上から始めたこの小さな企画が一歩となって、今後少しずつ、池上線沿線の本に関わるさまざまな場や人がつながっていけば、と願っています。相変わらず出版・書店をめぐる状況は厳しいものですが、そのようななかでも魅力的な場や活動が動き出しているとも感じています。

ブックスタジオの棚をご覧いただきながら、今回ご用意できていない「池上線にまつわる本のお話」を、ぜひ聞かせていただければと思っています。

 

【池上線開業100周年記念企画 沿線“本”まつり/開催概要】
◆会場:池上ブックスタジオ(東京都大田区池上4-11-1第五朝日ビル1F/東急池上線「池上」駅より歩8分)
◆期間:10月1日/7日、8日/14日、15日/21日、22日/28日、29日(金・土)
◆オープン時間:各日13時〜18時
◆イベント内容:
・池上線沿線にまつわる本の販売(主に新刊書籍)
・池上線沿線にまつわる本の展示
・沿線にある書店や出版社の紹介