〜本有引力〜

本と本がつながりますように

伊藤亜紗さんの本 ✕ ◯◯?

このブログでもお知らせしましたように、9月23日(土・秋分の日)に、障害を入り口に人の体のあり方・可能性について考えている研究者・伊藤亜紗さん(東工大教授)を池上ブックスタジオにお招きして、トークイベントを行います。もうまもなくですね。

座席に限りがあり、会場参加はあっという間に予約がいっぱいになってしまったのですが(申し訳ありません……)、10月1日(日)の12時から、当日の様子を録画して配信します。1週間のアーカイブ配信もありますので、当日参加のかなわなかった方も、ぜひご視聴ください。

「今だから話したい。本と居場所とまちのこと」ゲスト:伊藤亜紗さん

そして、池上ブックスタジオのさるうさぎブックス棚では、7月より伊藤亜紗さんの著書を取り揃えて並べております。イベントのある9月23日は、伊藤さんもしばらくお店に滞在してくださる予定です。伊藤さんとお話ししたい、サインがほしいという方、ぜひぜひお越しください。

池上ブックスタジオの棚は、20冊もあればいっぱいになります。ですので、今回は伊藤さんの本だけを選んで並べていますが、本はその一冊を読むだけでもおもしろいけれど、どこかで繋がる本を「併せて読む」「続けて読む」と、さらに楽しみが広がるものだと思います。

そこで今回は、伊藤亜紗さんの著書と、“併せて並べたい”本について。

伊藤さんの本:『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社新書

www.kobunsha.com

以前にも紹介した本ですが、最初に伊藤さんの本を読むなら、やはりこちらをおすすめしたいと思います。視覚障害のある人の経験している世界の一端を示したこの本は、現在までの伊藤さんの活動の軸を端的に示しているものだと思います。

この本と併せて読みたいものとしては……

本川達雄『ゾウの時間 ネズミの時間ーーサイズの生物学』(中公新書

www.chuko.co.jp

『目の見えない人は〜』のなかでも言及されていますが、伊藤さんが生物の営みを研究するきっかけとなった重要な研究者とその著書。ベストセラー・ロングセラーで、私も学生時代に読み、いまも大切に持っている一冊です。

伊藤さんの著書すべてに通じることですが、伊藤さんが着目しているのは「障害」ではなく、健常とか障害とかにかかわらない「一つひとつの体」だと感じています。

その意味で、視覚障害がテーマとなっているという共通項があるからというよりも、そこから浮かび上がる、私たちの既知の経験の解体と新しい可能性を示してくれるものとして、次の本はぜひ一緒に読んでいただきたいと思います。

川内有緒『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』(集英社インターナショナル

www.shueisha-int.co.jp

視覚障害のある人のことがわかるのではなく、視覚障害のある人と一緒にアートを鑑賞しにいくことによって、アートを見るとは、そもそも見るとか、見えている状態で生きること(それによって見えていないこと)ついて、一段、いや数段深いところまで感じさせられる本です。

本と並行して制作された映画も、昨年末から制作チームが手作りで上映を続けています。ご興味のある方は、こちらもぜひご覧ください。

shiratoriart.jp

「目の見えない」ではなく、「目は見えるんだけれど……」、でも同じように今まで知らなかった世界が見える本として、こちらをおすすめしたいと思います。

シベール・ヤング『女王さまの影ーー動物たちの視覚のはなし』(BL出版

www.ehonnavi.net

私たちの「見える」は、決して当たり前のものじゃない。さまざまな動物、鳥、虫、水中の生物には、それぞれの「見える」世界がある。愉快な物語のある絵本を通して、それを教えてくれる素晴らしい一冊です(オチがまたおもしろい)。

 

伊藤さんの本:『どもる体』(医学書院)

www.igaku-shoin.co.jp

伊藤さんの本:『記憶する体』(春秋社)

www.shunjusha.co.jp

前者は吃音の、後者はそれに加えて視覚障害、麻痺や幻肢痛認知症など、さまざまな「健常とされていない」体の経験する独自の世界を、ていねいに聞き取って言葉にしたものです。

いずれもとにかく刺激に満ちていて、まずはそれぞれの本自体を読んでいただきたいのですが、「併せて読むなら……」ということで考えてみると、「“普通”ってなんだろう? その経験・感覚を解体してみる」というところにポイントがあるのだと思います。

そこで、改めて自分の本棚を見直してみて、一緒に読めたらおもしろそうな本を挙げてみます。

マーシャ・ブラウン(文と写真)、谷川俊太郎(訳)『目であるく、かたちをきく、さわってみる。』(港の人)

www.minatonohito.jp

タイトルがすべてを表してるような、素敵な本です。ふだん当たり前に思っている感覚を、ゆっくり一度ほどいてみる。谷川俊太郎さんによる訳の言葉の魅力がとても大きいのだろうなぁと感じると同時に、原著の言葉も気になります。

磯野真穂『なぜ普通に食べられないのか』(春秋社)

www.shunjusha.co.jp

当たり前に受け入れている感覚を、一度ほどいて見直してみる。その意味で、伊藤さんのアプローチと人類学は結構近いところにあるのではないかと思います。

とはいえ、一般的にはネガティブに受け取られがちなものに新たな価値を見出そうとする(基本的にはポジティブな)伊藤さんのスタイルと、まずは「Why」をきちんと見つめようとする人類学の最もスタンダードな研究では、読み手に与える印象は異なるのかもしれませんね。「摂食障害」というテーマ、そして私たちの「当たり前」に思っていることの課題があぶり出されてくるので、少々重い読書体験になるかもしれませんが、通底する意識としては共通するものがあるのではないかと思います。

伊藤さんの本:『手の倫理』(講談社選書メチエ

bookclub.kodansha.co.jp

手が人にさわる/ふれる、そこに生まれる関わりを見つめる一冊。「手でふれる」というのは、一見あたたかい印象があるけれど、そこには相手の領域に踏み込む、ある種の権力性・暴力性が伴うという面もある。

言葉に次いでもっとも身近なコミュニケーションツールである「手」について、ぐっと深いところまで潜る一冊です。

「触れる」ところから始まる、人間の可能性を知るものとしては、皮膚科学研究者・傅田光洋さんの本をおすすめしたいと思います。

傅田光洋『皮膚感覚と人間のこころ』(新潮選書)

www.shinchosha.co.jp

「さわる/ふれる」の、どちらが主体かあいまいなところに生起する、不可思議で魅力的な「体」のコミュニケーションについて描いた本として、こちらも興味深い一冊です。

細馬宏通『介護する体』(医学書院)

www.igaku-shoin.co.jp

差し挟まれたイラストがまたとてもよくて、「パァーン!」とハイタッチするカットがいまも印象に残っています。

前述のとおり、棚のスペースには限りがあるので、残念ながら併売はできておりませんが、ぜひお近くの本屋さんや図書館などで探してみてください。また、そこからさらに、本から本への旅を楽しんでみてください。