〜本有引力〜

本と本がつながりますように

先駆者としての本(本に生えた草の葉から01)

私の読む本にはよくが生えます。
(いえいえ、「www」ということではありませんwww)

書き込みをするのが苦手な私は、その代わりに気になったところにペタリペタリと付箋をはります(本の長期的な保存の観点からは、あまりよくない方法だということはわかっているのですが……)

ポストイットの「フィルム 透明見出し」をもう何年にもわたって愛用しています。スリムで、ケースから取り出しやすく(この仕組みはすばらしい)、根本が透明なために文字などを邪魔しない。本当に使い勝手のよいものです。

ノンフィクションなどの本では、それこそ草が生えるように付箋が繁茂することが多いのですが、物語の流れを楽しむ小説の場合、ほとんど、あるいはまったく付箋が生えないこともあります。

ちょうど読み終えたばかりの本では、たった一本だけ付箋が生えていました。改めて読んでみても、とても素敵な箇所だったので、今日はその部分をご紹介します(読み終えた本の付箋箇所を振り返ってみる、というのはなんだかおもしろいものが出てきそうなので、思いつきですが、継続するように敢えて番号を振ってみます)

……どこかで見たことがある人たちの写真の話から始まり、最近の流行作家のヤングアダルト小説の話にまで及んだ。Aはこういう小説について聞いたことはあっても読んだことがなかった。そこでMは、叱られるのを覚悟のうえで流行小説を持っていったのだが、先生は思いがけないことに面白い講釈をしてくれた。それを聴いてMが理解したのは、流行作家というのは月から降ってくるものではなく先駆者がいるということーーMは先駆者のことなど夢にも思いつかなかったーー、そもそもどんな本も何かしらそれまでに書かれたものや言われたものを踏まえているということもわかった。……

(※人物名はアルファベットに置き換えて伏せております)

詩をはじめとする文学にまったく触れたことのなかった若者と、詩人の言葉をずっと追い続けてきた老いた学者が、ふとした偶然で出会ってはじまった、ささやかな文学講義。

たまたま別の本を読んでいて、「何をもって本は『本』と認められるのか」「人は本のどのような点に価値や意義を見出すのか」などということを考えていて、本と本とのあいだの関わりというようなことを思い描いていたところでした。

そんなときに出合ったこの一節は、本というものの在り方について、深い示唆に富む指摘ではないかと思います。

さて、この文章はどの本からの引用なのか、わかりますでしょうか?
ご興味のある方は、ぜひこの本を読んでみてください。
(一冊全体もすばらしい作品でした)

伊藤亜紗さんの本 ✕ ◯◯?

このブログでもお知らせしましたように、9月23日(土・秋分の日)に、障害を入り口に人の体のあり方・可能性について考えている研究者・伊藤亜紗さん(東工大教授)を池上ブックスタジオにお招きして、トークイベントを行います。もうまもなくですね。

座席に限りがあり、会場参加はあっという間に予約がいっぱいになってしまったのですが(申し訳ありません……)、10月1日(日)の12時から、当日の様子を録画して配信します。1週間のアーカイブ配信もありますので、当日参加のかなわなかった方も、ぜひご視聴ください。

「今だから話したい。本と居場所とまちのこと」ゲスト:伊藤亜紗さん

そして、池上ブックスタジオのさるうさぎブックス棚では、7月より伊藤亜紗さんの著書を取り揃えて並べております。イベントのある9月23日は、伊藤さんもしばらくお店に滞在してくださる予定です。伊藤さんとお話ししたい、サインがほしいという方、ぜひぜひお越しください。

池上ブックスタジオの棚は、20冊もあればいっぱいになります。ですので、今回は伊藤さんの本だけを選んで並べていますが、本はその一冊を読むだけでもおもしろいけれど、どこかで繋がる本を「併せて読む」「続けて読む」と、さらに楽しみが広がるものだと思います。

そこで今回は、伊藤亜紗さんの著書と、“併せて並べたい”本について。

伊藤さんの本:『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社新書

www.kobunsha.com

以前にも紹介した本ですが、最初に伊藤さんの本を読むなら、やはりこちらをおすすめしたいと思います。視覚障害のある人の経験している世界の一端を示したこの本は、現在までの伊藤さんの活動の軸を端的に示しているものだと思います。

この本と併せて読みたいものとしては……

本川達雄『ゾウの時間 ネズミの時間ーーサイズの生物学』(中公新書

www.chuko.co.jp

『目の見えない人は〜』のなかでも言及されていますが、伊藤さんが生物の営みを研究するきっかけとなった重要な研究者とその著書。ベストセラー・ロングセラーで、私も学生時代に読み、いまも大切に持っている一冊です。

伊藤さんの著書すべてに通じることですが、伊藤さんが着目しているのは「障害」ではなく、健常とか障害とかにかかわらない「一つひとつの体」だと感じています。

その意味で、視覚障害がテーマとなっているという共通項があるからというよりも、そこから浮かび上がる、私たちの既知の経験の解体と新しい可能性を示してくれるものとして、次の本はぜひ一緒に読んでいただきたいと思います。

川内有緒『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』(集英社インターナショナル

www.shueisha-int.co.jp

視覚障害のある人のことがわかるのではなく、視覚障害のある人と一緒にアートを鑑賞しにいくことによって、アートを見るとは、そもそも見るとか、見えている状態で生きること(それによって見えていないこと)ついて、一段、いや数段深いところまで感じさせられる本です。

本と並行して制作された映画も、昨年末から制作チームが手作りで上映を続けています。ご興味のある方は、こちらもぜひご覧ください。

shiratoriart.jp

「目の見えない」ではなく、「目は見えるんだけれど……」、でも同じように今まで知らなかった世界が見える本として、こちらをおすすめしたいと思います。

シベール・ヤング『女王さまの影ーー動物たちの視覚のはなし』(BL出版

www.ehonnavi.net

私たちの「見える」は、決して当たり前のものじゃない。さまざまな動物、鳥、虫、水中の生物には、それぞれの「見える」世界がある。愉快な物語のある絵本を通して、それを教えてくれる素晴らしい一冊です(オチがまたおもしろい)。

 

伊藤さんの本:『どもる体』(医学書院)

www.igaku-shoin.co.jp

伊藤さんの本:『記憶する体』(春秋社)

www.shunjusha.co.jp

前者は吃音の、後者はそれに加えて視覚障害、麻痺や幻肢痛認知症など、さまざまな「健常とされていない」体の経験する独自の世界を、ていねいに聞き取って言葉にしたものです。

いずれもとにかく刺激に満ちていて、まずはそれぞれの本自体を読んでいただきたいのですが、「併せて読むなら……」ということで考えてみると、「“普通”ってなんだろう? その経験・感覚を解体してみる」というところにポイントがあるのだと思います。

そこで、改めて自分の本棚を見直してみて、一緒に読めたらおもしろそうな本を挙げてみます。

マーシャ・ブラウン(文と写真)、谷川俊太郎(訳)『目であるく、かたちをきく、さわってみる。』(港の人)

www.minatonohito.jp

タイトルがすべてを表してるような、素敵な本です。ふだん当たり前に思っている感覚を、ゆっくり一度ほどいてみる。谷川俊太郎さんによる訳の言葉の魅力がとても大きいのだろうなぁと感じると同時に、原著の言葉も気になります。

磯野真穂『なぜ普通に食べられないのか』(春秋社)

www.shunjusha.co.jp

当たり前に受け入れている感覚を、一度ほどいて見直してみる。その意味で、伊藤さんのアプローチと人類学は結構近いところにあるのではないかと思います。

とはいえ、一般的にはネガティブに受け取られがちなものに新たな価値を見出そうとする(基本的にはポジティブな)伊藤さんのスタイルと、まずは「Why」をきちんと見つめようとする人類学の最もスタンダードな研究では、読み手に与える印象は異なるのかもしれませんね。「摂食障害」というテーマ、そして私たちの「当たり前」に思っていることの課題があぶり出されてくるので、少々重い読書体験になるかもしれませんが、通底する意識としては共通するものがあるのではないかと思います。

伊藤さんの本:『手の倫理』(講談社選書メチエ

bookclub.kodansha.co.jp

手が人にさわる/ふれる、そこに生まれる関わりを見つめる一冊。「手でふれる」というのは、一見あたたかい印象があるけれど、そこには相手の領域に踏み込む、ある種の権力性・暴力性が伴うという面もある。

言葉に次いでもっとも身近なコミュニケーションツールである「手」について、ぐっと深いところまで潜る一冊です。

「触れる」ところから始まる、人間の可能性を知るものとしては、皮膚科学研究者・傅田光洋さんの本をおすすめしたいと思います。

傅田光洋『皮膚感覚と人間のこころ』(新潮選書)

www.shinchosha.co.jp

「さわる/ふれる」の、どちらが主体かあいまいなところに生起する、不可思議で魅力的な「体」のコミュニケーションについて描いた本として、こちらも興味深い一冊です。

細馬宏通『介護する体』(医学書院)

www.igaku-shoin.co.jp

差し挟まれたイラストがまたとてもよくて、「パァーン!」とハイタッチするカットがいまも印象に残っています。

前述のとおり、棚のスペースには限りがあるので、残念ながら併売はできておりませんが、ぜひお近くの本屋さんや図書館などで探してみてください。また、そこからさらに、本から本への旅を楽しんでみてください。

私の「ぼうけん図書館」

前回は、現在、立川のPLAY!MUSEUMで開催されている「エルマーのぼうけん」展(〜10/1)の展覧会レビューをお届けしました。その展示の最後には、「冒険家、写真家、学者、スポーツ選手、 絵本作家や文学者ら、挑戦する」さまざまな人たちがおすすめするもの、そしてそれ以外にもたくさんの“ぼうけんの本”が並べられた「ぼうけん図書館」がありました。

さまざまな冒険家たちの歩みを描いたノンフィクション、エルマーと同じように勇気と知恵でさまざまな困難を乗り越える物語、そして意味を広く捉えて、この世界のあちらこちらに潜む多様な「冒険」をとらえた本……読み物からエッセイ、絵本、漫画、図鑑、実用書まで、多彩な冒険の本が用意されていました。

(個人的な苦言となりますが、各界の方々による選書以外の本が、本どうしがぐちゃっと積み重なるかたちで置かれていたのはあまり心地よく感じられませんでした。販売している本ではないとはいえ、多くの人が手にとる本が、歪んだりしたまま置かれているのは、ちょっと心が痛みます……)

さまざまな選者の方のコメントと本を見ていると、「冒険」という言葉が呼び起こすなにかワクワクする気持ちと、そして「冒険」という同じ言葉から広がる多彩な世界に目を開かされる感覚がむくむく湧いてきて、とにかくふむふむうなずきながらぐるぐる見て回りました。

そして、やはり「自分が選ぶならば、どの本だろう……?」という考えが頭をもたげてきたのです(本のこととなると、つい自分に置き換えて考えてしまいます)。

ということで、今回は私的・ぼうけん図書館を考えてみたいと思います。

自分にとって「冒険家」といって思い浮かぶのは、やはり石川直樹さんです。編集の仕事を始めてから写真に興味を持ち、そして写真ともともと好きだった旅が交差すると、自然と石川直樹さんの写真と文章に行き当たりました。

今回の「ぼうけん図書館」での各界の方による選書でも、石川直樹さんの本を選んでいる人が多かったように思います(たぶん、同じ著者の本としてはいちばん多かったはず)。

北極から南極へ人力で移動する「POLE TO POLE」プロジェクト(2000)からもう20年以上。旅、冒険、未踏の地に臨むことについてたくさんの文章を残してきていて、たくさんの経験と思索を重ねたのちの近年の著作にはますます深さが感じられますが、「冒険とはなにか」という問いに対して選ぶときに、初期のこのエッセイ2点は欠かせない、そしていつまでも色褪せないものだと思います。

『全ての装備を知恵に置き換えること』(晶文社、2005 → 集英社文庫、2009)

www.shueisha.co.jp

『いま生きているという冒険』(理論社、2006 → イースト・プレス、2011 → 増補新版・新曜社、2019)

どの本の記述だったか定かではないのですが、本当に多様な極地を経験してきている石川さんが、冒険とは決して極地だけにあるものではなく、日常のなかにたくさんの冒険が潜んでいる、ということを述べていたと思います。

その意味で、石川さんがコロナ禍の2020年に、自身のルーツである東京を歩き、撮り、考えた『東京、ぼくの生まれた街』(エランド・プレス)は、まさに冒険のエッセンスだと言えるのではないでしょうか。

errandpress.com

PLAY!MUSEUMの「ぼうけん図書館」に数え切れないほどの本が集められていたように、“ぼうけんの本”と言える本は本当に限りがないと思います。蔵書量もジャンルの幅もごくごく限られている自分の本棚にある本だけでも、多様な意味で「冒険」を捉えたら、あれここれも列挙できてしまいそうです。

それではただ散漫なだけになってしまうので、何か少しでも話の流れをつくれそうなタイトルを挙げることにしたいと思います(自分では泣く泣く絞り込んだつもりでも、まだまだ散漫に感じられてしまうかと思いますが)。

私にとって「これぞ冒険物語」という王道的な本を選ぶなら……

ミヒャエル・エンデはてしない物語』(岩波書店

www.iwanami.co.jp

J・R・R・トールキン指輪物語』(三部作、評論社)

www.hyoronsha.co.jp

アーシュラ・K・ル=グウィンゲド戦記』(当初は三部作、その後続刊三作、岩波書店

www.iwanami.co.jp

『果てしない物語』は、読みながら主人公バスチアンとともに、本とは出会うごとに様相を変える「冒険」であるということを知った一冊。

そのほかにも多くのファンタジー作品に触れていくなかで、最も骨太で、重厚な世界観をもった作品が『指輪物語』でした。中学生の頃に読んでからもう30年近く。映画と前日譚『ホビットの冒険』から入った子に、この作品のバトンを渡したいと考えている今日この頃です。

そして、こうしたファンタジー作品のなかでも最も哲学的な影響を受けた(受け続けている)のが『ゲド戦記』(初期三部作、特に第1作の影との戦い)です。この物語世界の魔法の核にあるのは「まことの名」というものですが、それを追い求める冒険は、ある意味で己の内面への探求と言えるのではないかと思います。そんな哲学的な探求を魔法世界の物語というかたちで描き出した、途轍もなく深い作品で、歳を重ねて何度読み直しても、学ぶことの多い本です。

同じル=グウィンの作品で、もっと軽く心地よく読めるけれど、冒険に満ちた素敵な物語が『空飛び猫』シリーズ(講談社文庫)。羽の生えた猫たちの冒険を、あたたかく見守ってください。

bookclub.kodansha.co.jp

続いて、タイトルに「冒険」という語を冠する本を探してみたところ、次のようなものがありました。

斎藤惇夫冒険者たち』(岩波書店

www.iwanami.co.jp

小学生の頃の自分の愛読書。イカサマが好きで、よくサイコロを持ち歩いていました。イタチのノロイのカリスマ、おそろしさは、読んでいて本当にゾクゾクするものでしたね。

さとうち藍(文)、松岡達英(絵)『冒険図鑑』(福音館書店

www.fukuinkan.co.jp

この本は、(「◯◯図鑑」のシリーズ含めて)その存在は知りつつ自分でも触れてこなかったものを、数年前、子への誕生日の贈り物にしました。でも、年経るごとにアウトドア的な活動から遠ざかる現代っ子、ほとんど読んでいないようです……ただ、こういう本は決して古びないので、いつでも手の届くところにあることが重要かな、と思います。

森まゆみ『「青鞜」の冒険ーー女が集まって雑誌をつくるということ』(平凡社、2013 → 集英社文庫、2017)

www.heibonsha.co.jp

タイトルにもある雑誌「青鞜」をめぐる女性たちの物語。当時、女性が自分たちのための雑誌をつくるということが、いかに過酷な冒険だったか。本を編むということの重みを実感します。単行本版の装丁が本当に美しく、ぜひ手にとって見ていただきたい本です。

広瀬友紀『ちいさい言語学者の冒険』(岩波科学ライブラリー)

www.iwanami.co.jp

「これ食べたら死む?」のような、大人には足を踏み入れることの難しい、興味深い言語の世界を冒険している子どもたちから学びを得る本。自分の子が幼かった頃のことを思い出しながら、噛みしめるように味わえる一冊です。

最後に挙げた2冊は、「冒険」を文字通りの意味から拡張したものだと思いますが、改めて「冒険」とは何なのでしょう。狭い意味では、人跡未踏の極地を行くようなものがイメージされるかもしれませんが、石川直樹さんの言葉や、上に挙げたような多様な「ぼうけんの本」から考えてみると……物理的な土地という意味に留まらず、それが具体的なものであれ比喩的なことであれ、新しい世界に臨むことはすべて、「冒険」と言えるのかもしれません。

そんなことを考えながら、私の蔵書からそれに当てはまるもので、ぜひご紹介したい本を徒然に挙げたいと思います。

ギルガメシュ叙事詩』(矢島文夫訳、ちくま学芸文庫

www.chikumashobo.co.jp


『ギルガメシュ王の物語』(画・司修、訳・月本昭男、ぷねうま舎)

世界最古の物語とも言われる、古代メソポタミアの物語。永遠の命を求めて旅をする、というのは人間の根源的な業なのかもしれません。

イザベラ・バード『日本奥地紀行』(平凡社東洋文庫

www.heibonsha.co.jp

明治時代の日本各地を西洋の女性が旅する、そこには幾重もの冒険的要素があったのだと思います。大学院時代の恩師(に後になる先生)の授業を通じて手にとった本。『朝鮮紀行』(講談社学術文庫)などとも併せて。

前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書

www.kobunsha.com

学術的に非常に意義ある営みを、こんなに抱腹絶倒な本として読めるとは。極地的な意味でも、また新たな分野を切り開くという意味でも、素晴らしい冒険の書

前田亜紀カレーライスを一から作る』(ポプラ社

www.poplar.co.jp

探検家・関野吉晴さんが武蔵野美術大学で行った、まさにタイトルどおり「カレーライスを一から作る」ゼミの記録。米も、ルーの野菜も肉もスパイスも、そして食器までも、本当にすべてを一から作ることに挑みます。冒険の第一人者と一緒に追い求める、足元にある冒険。未見ですが、映画版もぜひ観てみたいものです。

バッジュ・シャーム『ロンドン・ジャングルブック』(タラブックス/三輪舎)

インド最大の少数民族「ゴンド族」の画家が、ロンドンのインド料理店の壁画を描く仕事の依頼を受け、故郷を離れてロンドンへ。初めて触れる大都会、ゴンド・アートの画家の目にはどう映ったのか。「冒険」の本質的な部分を表している本だと思います。

安達茉莉子『臆病者の自転車生活』(亜紀書房)『私の生活改善運動 THIS IS MY LIFE』(三輪舎)

住まう空間、食べるもの、装うもの、そして移動手段。何気ない日常のなかにも、「冒険」は確かに存在する。雄々しいことが冒険なのではない、誰もが冒険の主役なのだ、と感じられる本です。

大童澄瞳『映像研には手を出すな』(小学館

www.shogakukan.co.jp

最後に取り上げるのは、学校の映像研究会に所属する3人の高校生が挑む、アニメづくりという「冒険」の物語。これぞ日常にある血湧き肉躍る冒険と言えるでしょう。苦いことも酸っぱいことも含めて、若さが持つ可能性をいっぱいに感じる作品です。私はふだん、歳と経験を重ねることを比較的肯定的に捉えていて、過去に戻りたいと感じることはあまりないのですが、この作品を読んで&観て(アニメ作品)、「若いって素晴らしい! 高校生に戻ってこんな冒険したい!」と感じさせられました。

 

……だいぶんとりとめのない感じになってしまいましたが、これにていったん、私の「ぼうけん図書館」を閉じたいと思います。

皆さんの「ぼうけん図書館」も、ぜひ教えてください。

エルマーとりゅうに会いに行った!

もう2週間ちょっと前になりますが、7月半ばから立川のPLAY!MUSEUMで開催されている「エルマーのぼうけん展」を見にいきました。

展示を見てきてから描いた、鉛筆スケッチ

世界中で愛される名作「エルマー」シリーズ。原作は1948年〜1951年刊行、日本では1963年に3作をそろえて翻訳刊行されました。ですから、親子二代にわたって楽しんでいるという方も少なくないと思います。私自身は、子どもの頃に読んだような気もするし、そうでない気も……ということはおそらく、しっかりと読む機会がないまま、大人になってから出会ったのだと思います。それでも、子どもと一緒に何度も何度も楽しんだ物語で、自分にとって大切な本の一つになっています。タイミングよく家族みんなで行けることになり、期待は高まるばかり。

そして、開館時のエリック・カール 遊ぶための本」展以来、「がまくんとかえるくん」のアーノルド・ローベルミッフィーぐりとぐら」展など、絵本や児童文学を好む人にとって(いや、そうでなくても)たまらなく魅力的な企画をいくつも行ってきたPLAY!MUSEUM。でも、なんとなくタイミングが合わず(コロナ禍の影響も少なくないと思います)、これまで訪れないままになっておりました。ですから、ミュージアムそのものについても大いに楽しみにしながら訪れたのでした。

入り口に貼られた、書影を模した大きなポスターを見るだけでもう感激でした。

展示の導入部分は、子どもが小さい頃に家族で遊んだ「エルマーのぼうけんすごろく」をちょっとイメージさせるような仕掛け。それだけで気分が高まります。

展示の中心は、シリーズ3作の本に収められた挿画の原画です。 ルース・スタイルス・ガネットがつくりだした、不可思議な、とても優しい物語。そして、その物語の世界観を義母(継母)でもあるイラストレーター、ルース・クリスマン・ガネットが見事に再現したやわらかく繊細なイラスト。その両方が交ざり合うことで、多くの人をひきつけてやまない作品が生まれたのだと思います。添えられたテクストを読みながら絵を見ていくと、物語の世界にすっかり引き込まれます。

とはいえ、比較的小さな鉛筆画がずっと並ぶという展示。単調に感じられてしまう可能性もあるものですが、ふと見ると、羽根、チューインガム、キャンディー、歯ブラシ、みかんの皮……などなど、ところどころで絵の周りに物語の雰囲気を再現した仕掛けがあり、思わず笑みがこぼれます。

個人的に、ときどきちょっとしたラクガキ(スケッチ)をしていることもあり、本の挿画の原画など、手を動かした跡の見えるものを見られることが非常に嬉しくて、一点一点をじっくり、そしてまた最初に戻ってもう一度、とぜいたくなくらいに味わいました。

「手を動かした跡」という意味では、完成された作品以上に、習作やスケッチブックに描かれた絵に大いに惹かれています。原画の展示の後には、作者のガネットが幼い頃に物語や絵を書いたノート、イラストのイメージ共有のためにガネット自身が描いた地図やイメージ図、手作りのダミー本などの貴重な資料が並ぶコーナーがあり、これまた垂涎の空間でした。

興味深かったのは、ガネットが過ごした幼い頃の教育環境。小さな頃からお話をつくったり想像をするのが好きだった彼女が、その興味関心と才能を素直に伸ばせるような、自由でゆとりのある教育を受けることができたようです。当時のノートを見るだけで、溢れるような才能とのびのびと表現をしていた様子がうかがえるようです。

本当に見ごたえのある展示で、一緒に来ている家族がどうしているのかも考えずに、ただただゆっくりじっくり鑑賞してしまいました。流石にちょっと申し訳なかったかな、と思って展示の最後の場所にやってくると……なるほど、何も問題なかったな、と一安心。

展示の最後には、勇気と知恵をもってユニークな冒険をなしとげたエルマーの物語にちなんで、「ぼうけん図書館」というスペースが設けられていたのです。(公式webサイトの言葉を借りると)「冒険家、写真家、学者、スポーツ選手、 絵本作家や文学者ら、挑戦する」さまざまな人たちがおすすめする、“ぼうけんの本”がズラリと並べられています。そして、そのほかにも、たくさんの古今東西の“ぼうけんの本”が。わが家の子も含めて、子どもたちはそこですっかり本のとりこに。それぞれのぼうけんの世界に浸っていたのでした。

さまざまな方が選ぶ「ぼうけんの本」、バラエティに富んで非常におもしろかったです。もし自分が選ぶなら、どの本だろうか――

ということで、次回?はそんなテーマで書いてみたいと考えています。

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「エルマーのぼうけん」展@PLYA!MUSEUMは、10月1日(日)まで。
子どものとき、子どもと一緒に、この物語を楽しんだ方は、ぜひ足を運んでみてください。

最後の最後、グッズを扱うショップを出たところにあるカフェでは、なんとこんなメニューも!!

 

【9月23日】伊藤亜紗さんトークイベント開催します!

7月から、池上ブックスタジオのさるうさぎブックス棚では「伊藤亜紗さんと読む “体”がひらく世界」と題して、障害を入り口に人の体のあり方・可能性について考えている研究者・伊藤亜紗さんの本の特集をしております。

そしてこの度、9月23日(土)に伊藤亜紗さんを池上ブックスタジオにお招きして、トークイベントを行うことになりました。

「今だから話したい。本と居場所とまちのこと」
※イベントページは、上記のタイトルをクリック

著作の内容も多岐にわたり、またさまざまな分野の人・テーマとも対話やプロジェクトを重ねてきている伊藤さん。どんなお話を聞いたら、ブックスタジオらしく、おもしろいものになるだろうか?と企画運営チームでミーティングをしたところ、自然と出てきたテーマが「居場所」「居心地」というものでした。

池上ブックスタジオ(その母体であるノミガワスタジオ)をはじめ、池上のまちには、それぞれ個性豊かな、でもいずれも居心地のいい場所がたくさんあります。それによって、まちそのものもとっても居心地がいい。

人は、一人ひとり性格も好みも、(伊藤さんにならって言うならば)体のあり方も、みな違っていて、また同じ人であってもそのときどきによって心身の状態も異なります。そんな多種多様な人が訪れたり、通り過ぎたりするいろいろな場所の「居心地のよさ」って何なのだろうか?ーーそんなことを、伊藤さんご自身のこと、池上のまちから感じることなどを切り口として、たっぷりお話を伺いたいと思います。

聞き手は、池上ブックスタジオの棚主仲間、「はいくや」佐瀬優子さんと「Bruno Ogino」荻野章太さん。お二人とも素晴らしい聞き手で、またお話の引き出しをたくさん持っています。伊藤さんとのやりとりから、きっと豊かななにかが生まれてくるはずです!

決して大きな会場ではないので、参加者は18名限定となります。後日になりますがアーカイブ配信も調整中です。でもせっかくなので、ぜひ会場に聞きにきていただければうれしいです。トーク後、伊藤さんとのお話もお楽しみいただければと思います(本へのサインもしていただきましょう!)。

ぜひふるってご参加ください!

※さらに、この日は夕方から、池上ブックスタジオのお店番「池上で考え中」さんによる、ビートライブのセッションも予定されています(15:30〜
/17:00〜)。本と一緒に、ゆっくりとした時間を過ごしていただければ。


<開催概要>
「今だから話したい。本と居場所とまちのこと」 ゲスト:伊藤亜紗さん

◆日時
2023年 9月23日(土)10:45~12:00(開場 10:15)

◆会場
ノミガワスタジオ(ブックスタジオ )
〒146-0082 東京都大田区池上4-11-1 第五朝日ビル 1F
https://bookstudio.storeinfo.jp/
[アクセス]
東急池上線「池上」駅 徒歩8分

◆出演
伊藤亜紗(いとう・あさ)さん

佐瀬優子(させ・ゆうこ) アトリエ言景主宰/池上ブックスタジオ「はいくや」「まちよみ」棚主
荻野章太(おぎの・しょうた) 東急株式会社/池上ブックスタジオ「Bruno Ogino」棚主

◆定員 18名

◆入場料
1,500円(1ドリンク付)

◆主催・企画:さるうさぎブックス  Baobab Design Company
◆撮影・技術:堤方4306
◆協力:ノミガワスタジオ