〜本有引力〜

本と本がつながりますように

あなたの「旅と一冊」、教えてください

この9月にオープンした池上ブックスタジオに、さるうさぎブックスとしてスタートから参加させていただきました。

「テーマを設けて本を並べる」というのが基本のスタイル。初回のテーマは「Go to “Book” Travel」、当初2ヶ月間を想定してスタートしましたが、某政府の方策と同様に……いや、もうちょっと展開したい企画があったので、この年末まで延長してきました。

11月21日のお店番の際には、「あなたの『旅と一冊」、教えてください」と題して、お店と一部webにてアンケートを行いました。また、お店には大きな(A1サイズ)世界地図を持っていって、お客さんに訪れたことのある国・土地にシールを貼ってもらうという試みも。

あっという間にシールの密度が高くなるところから、意外な点にポツンと貼られるところまで。そして貼られたシールをきっかけに、次々ひろがる旅の話題。しっとり雨曇りの午後、いろいろな旅の物語を見せていただきました。

そうしていただいた、皆さんのからの「旅と一冊」、年の瀬ギリギリになってしまいましたが、こちらでご紹介したいと思います。

まずは私の「旅と一冊」から。

フランツ・カフカ『審判』

大学院1年生の夏、2ヶ月間の夏休みをまるまる使って、ドイツを中心に西ヨーロッパをフラフラと旅したのですが、院生になってから学び始めたドイツ語を勉強をしながらの旅でした(バックパックのなかには独和中辞典)。その際にテキストとして使っていたのが、この『審判』のなかに挿し挟まれるエピソード「掟の問題」だったのです。

2ヶ月の旅の間に、当初予定していなかったプラハを訪れて、カフカの旧居あたりも歩いたり。カフカはもともと好きな作家でしたが、そのテキストを辿りながら、カフカ自身が生きた土地を歩くことを通して、さらに特別な存在になったように感じています。

それでは、続けてほかの方からいただいた「旅と一冊」をご紹介しましょう。

◆アベシさん

「旅学」(ネコ・パブリッシング)

comment:

当時、出版社仕事の合間にパラリと開きながめ遠い国に思いを馳せてました。

旅の雑誌は、旅を想起させるいちばんの装置ですよね。「旅行人」「TRANSIT」などを見ると、いつも旅心をくすぐられます。

◆makaniみずかみさん

細谷亮太『いつもいいことさがし』

commet:

目に見えるものに疲れちゃって“目に見えないもの”を見ようって思えました。森の中で出会った本です。

暮しの手帖」に連載されていた細谷先生の本ですね。雑誌でときどき拝読していましたが、ホッとするものがありますよね。ちょうど今年の9月に、完結版の3巻目が刊行されたようです。

◆あやばず文庫さん

カトヤ・パンツァル『フィンランドの幸せメソッド SISU(シス)』

comment:

人生の分岐点に気分転換をしたくてフラっと行くことにした弾丸フィンランド旅行の際に購入。下調べをしていなかったので行きの飛行機の中で読みました。忍耐、自分に打ち勝つ意思の強さといったフィンランド人の精神を知り、この本のおかげでサウナで真冬の海に入る勇気を持つことができました。寒かった……

政治、文化、さまざまな面で注目の高まっているフィンランド。個人的にはいま、改めてムーミントーベ・ヤンソンへの興味関心が高まっているので、こちらの本もぜひ読んでみたいです(書店ではよく目にしていました)。読むことで、極寒の冬の海に入れるようになる本っていったい……?

◆はいくやさん

林望(著)、小泉佳春(写真)『私の好きな日本』

comment:

さるうさぎブックスさんの紹介で出逢えた『バウルを探して』にリンクさせてみました。文は文、写真は写真が物語る、旅の記録。

『バウルを探して』は、同時開催していたミニ企画「川内有緒文庫」のメインの本でした。棚主仲間のはいくやさんがおすすめしてくださったように、『バウルを探して』も、こちらの本も、文章と写真にそれぞれの芯があり、そしてそれを共に味わうことでよりその魅力を深く感じられる本です。

そして、この本を挙げていただいたことには、個人的とても深く感じ入るものがありました。写真を担当されていた小泉佳春さんとは、以前に連載のお仕事をお願いしていたことがあり、その経験が自分にとってはかけがえのないものだったのでした。そのお人柄も、そのものの奥深いところまでを写しとるような写真も、本当に本当に敬してやまない方です。この本を読みながら、たくさんのことを思い出しました。

◆つむぎさん

石田ゆうすけ『行かずに死ねるか!』

commet:

20年前、バックパッカー旅行をしていた時に会った方が書かれた本です。 出会う人たちが温かく、軽快な語り口の中に著者の人柄と信念を感じます。 体験しているものは違うけれど、自分が旅しているときには言葉にできなかったものを、そっと補ってくれる感じがします。

ごくごく小さい規模ではありながら、自転車旅をしたことのある者にとっては、自転車一つでどこまでも行く旅、本当に憧れるものがあります。そして、つむぎさんと同じように、私もバックパッカー旅行中に、同じ宿で長期の自転車旅をしている方に会ったことがあります。彼はあの後、どんな旅をしたのだろうか。お互いに体調を崩していて出会った宿の、中庭の木々を思い出しました。

◆おがささん

「日本一周したときの日記」(ご本人著)

commet:

学生のとき一人旅をしたときのメモ。

鉄道好き。まち好き。

知らないまちで何に出会い何を思う。

気がついたら2冊のメモ帳が真っ黒に。

当日ご来店いただいた方より、「あの……こういうのでもいいですか?」と言ってわたされたのがこのコメントペーパーでした。

旅の記録……ああ、これぞ何よりの「旅の一冊」ですね! 2冊の手帳が真っ黒ということで、どんな長い旅だったのだろうかとお聞きしたら、なんと1週間ほどの旅だったとのこと! どんな濃密な旅をされたのでしょう。

すべての旅が、ほかの旅とは比較できない、唯一無二の経験なのですよね。一人で旅をしていた頃からだいぶ時間が経ってしましましたが、おがささんのコメントを拝見して、自分の旅の記憶がまざまざと蘇ってきました。

ちゃんと毎日毎日ではなく、時間のあるときにカフェなどで数日分まとめて記したりはしていたものの、考えてみると私もすべての旅で、日記を残していたのでした。

……そして、年末になり、家のなかのあちこちを整理していたところ、やばいものが出てきてしまったのです。

2007年のウズベキスタン、2008年のバングラデシュの旅の折に、その記録を綴った手帳です。速記なのに、今では考えられないくらいきちんと書かれていて、自分がいちばんびっくりしています。

恥ずかしい気持ちもありながら、やっぱり記録を残していてよかったなと改めて感じます。残り少ない今年、この日記を読みながら年を越したいと思います。

バタバタしながら始まった池上ブックスタジオでの一棚本屋。2021年も、ほかの棚主さんたちと一緒に、楽しい企てをどんどん仕掛けていきたいと思っています。

「旅の本屋」というイメージが強かった本年ですが、新年はまたまったく異なるアプローチで、皆さんに楽しんでいただければと思っています。池上で、またこちらでも、ぜひぜひよろしくお願い致します。

それでは、どうぞよいお年をお迎えください。